代表理事・会長の挨拶
坂村 健
一般社団法人AIデータ活用コンソーシアム 代表理事
INIAD(東洋大学情報連携学部)学部長
東京大学 名誉教授
トロンフォーラム 会長
公共交通オープンデータ協議会 会長
本コンソーシアム会長の長尾 真先生が昨年5月23日に逝去され、その後任として、このたびAIデータ活用コンソーシアムの代表理事に就任した坂村健です。
私はTRONプロジェクトで長年、IoTのインフラについて研究開発してきました。その過程でわかったのは、IoTを活かすことについてAIに大きな可能性がある──というより、適切なAIがなければIoTで大量に集めたデータから最適なフィードバックを行うような全体最適は不可能ということです。
そして、その適切なAIを教育するのに不可欠なのがデータです。よくいわれるように「AIはデータハングリー」であり、例えば小売の現場での仕入れ最適化でも、応用に直結した売上データだけでなく、天気や交通状況やさまざまな社会データとともに学習させることが効果的です。逆に言えば、それらの一般性の高いデータはよりよいAIを構築するための、皆に益する公共性の高い資源にほかなりません。そして公共性の高い資源を多くの人を利するように流通させるには、経済学でいう「流動性」がかかせません。
データの有償取引は知的財産、保証など様々な難しさがあり、現物の相対取引以上の流動性の問題があり、そのためにデータは囲い込まれ「塩漬け」になることも多いといいます。せっかくのデータという使い減りのしない資源が活かせないことは、少子高齢化によりAIによる全体最適を切実に必要とするであろう今後の日本にとって大きな損失です。AIDCは、それらの知的財産、保証など様々な難しさに取り組み、まさにこのデータの流動性を高めるためのインフラ──つまり「市場」を確立しようという試みです。
私は2015年より「公共交通オープンデータ協議会:ODPT」という組織を立ち上げ、主に公共交通関係のデータのオープン化を目指した活動をしてきました。ODPTは障害者の移動支援アプリを作るボランティアから、乗り換えサービス企業の利用まで、多様な社会活動のために公共交通関係のデータを資することを目指しており、AI利用を前提とするAIDCとは少し目的が違います。
しかし公共交通のデータは当然AI教育にも使えますし、何より一般性の高いデータ資源の流動性で苦しんでいるという意味では全く同じ問題意識を持っています。世界の多くの国では公共交通は行政が行っているので、自治体の首長が指示すればオープンできるのですが、日本は「民営化」により、民間セクターが複雑に絡みオープンデータ化がずっと進まない──「囲い込まれて」塩漬けになっていたという課題があり、ODPTはまさにその解決のために始めた活動だからです。
このような観点から、ODPTとAIDCはいわば提供側と利用側からの両面から同じ課題に取り組んでいる同志であり、協力することのメリットは非常に大きい──そう思い、このたび代表理事を引受させていただいた次第です。
データは使い減りのない資源──利用チャンネルは増やせば増やすほどメリットがあります。ODPTとAIDCで互いにデータ融通する、知的財産、保証の制度を統一しこれ以降の日本でのデータ流通制度の標準化につなげるなど、日本のデータ流動化のために進めていきたいと思います。
偉大な長尾先生の後任としての代表理事就任に身の引き締まる思いです。精一杯務めさせていただきますので、今後ともご支援ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。
一般社団法人AIデータ活用コンソーシアム代表理事 坂村 健